ハニートラップにご用心
――結論から言うと、商談は大成功。
資料はパソコンの中にデータとして残っていた。後に聞けば、書類が紛失したりした時のために色々な媒体でバックアップを取っているらしい。ほっとしたのも束の間、自分の注意力のなさに落ち込んだ。
社会人として、職場で泣くわけにもいかず商談が終わったあとにしょぼりしながら報告書を作成していると、土田さんはその重たい雰囲気に耐え切れないと言うように吹き出した。
"バカね、そんなこの世の終わりみたいに落ち込んじゃって"
"だって、下手したら土田さんの評価に影響していたんですよ……!"
そう言うと、土田さんは数度瞬きしてからまた笑い声を上げた。
"あらあら。新人ちゃんのくせにそんな難しいこと考えてたの?"
笑いながら、土田さんは仕事で私の手を取って、先程まで仕事で使っていた赤色のサインペンで私の手の甲に花丸を描いた。
"何かあったら、アタシが地面に顔を擦り付けて謝るからいいのよ。それが申し訳ないと思うなら、あなたはいつも通り笑ってアタシを癒してちょうだい"
"えっと……?"
"千春ちゃんが一人前になるためのミスなら、何回でも何百回でも付き合うから平気よ"
花丸に追加された二つの丸と、逆三角形。
土田さんが私の手の甲に描き残したのは、笑顔の絵だった。
"無遅刻無欠勤、毎日健康で明るく出勤してくれる千春ちゃんに花丸あげちゃう"
いつも一生懸命お仕事してくれてありがとう、なんて優しく笑うから――思わず、ポロリと涙をこぼしてしまった。