ハニートラップにご用心

「……え?これオーブンレンジじゃないんですか?」

「嘘でしょ千春ちゃん……」


長方形、取っ手のついた前開きの扉。オーブンレンジなのに中を覗くための窓がないのは不便だな、と思いながら皿を洗っていたけど、まさかこれが食洗機だなんて。

普段から食洗機を使うほどの量の皿や調理器具を使わないため、そんな文明の利器を見ることなど今までの人生では無かった。

恐る恐る取っ手を掴んで扉を開くと、銀の網がカゴのような形で備え付けられていた。確かにこれではパンも焼けなさそうだ。


「はい、食器入れて」

「は、はい」


言われるがままに土田さんと手分けして皿を食洗機の中に突っ込んでいく。


「洗剤を入れて、標準、乾燥を続けて押してスタートボタンを押したらあとは終わるまで放置よ」

「へえ……?」


テキパキと手際よく食洗機の操作を行う土田さんに思わず拍手をすると、苦笑いが返ってきた。オネエ系とはいえ、一応戸籍上の性別は男である土田さんに生活力で負けた。

女として何だか少し恥ずかしくて、うつむきながら濡れた手をタオルで拭いていると子供にするように、頭を撫でられた。


「世の中には色んな物があるから、知らないことがあるのは恥ずかしいことじゃないわよ」


土田さんは失敗したことや、当たり前の常識を知らなかったとしても絶対に怒らない。

「人間誰しも最初は経験値0なの。そして大人になっても経験値はそれぞれ違うんだから、頭ごなしに怒るのは違うと思うのよね」、これが口癖だった。


< 9 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop