ハニートラップにご用心

「でもまあ、あなたのお父さんもそう言ってこのホテルを立ち上げたのよね」


土田さんのお父さんと蘭さんは事実婚だったらしい。

蘭さんがお腹に土田さんを身ごもっていることが発覚するも、互いの両親に大反対されてそのまま籍を入れずに出産し、二人で育てたそうだ。

そして、そんな中で土田さんのお父さんは家族を守るため、両親に認めさせるためにと、ホテル事業を始め見事に成功。息子が成人してからようやく籍を入れることができたそうだ。

そして、土田さんは先程告げた理由から沢城の姓を受けることを、その事業や財産を受け取ることを拒否した。父親と同じように、自分の人生の道は自分で選んで掴み取りたいんだと。


「恭也を見ていたら、どんなことでも成功させてしまいそうな気がするわ」


蘭さんの言葉に、私も微笑んで頷く。

土田さんが抱いている野望や夢は、今度ゆっくり聞かせてもらおう。私に出来ることがあるなら、協力もしたい。


「ところで、ちぃちゃん」

「は、はいっ」


見た目のクールビューティーさに対して、大変フレンドリーな性格であった蘭さんは私のことをちぃちゃんと呼ぶ。未だに慣れない呼び名で呼ばれた私は声をひっくり返して返事をした。


「恭也とはどこまで進んでるの?」


隣で紅茶に口をつけていた土田さんが、軽く吹き出していた。咳き込む彼を労る余裕もなく、私は顔を真っ赤にして口をもごもごさせる。


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