ハニートラップにご用心
「おい、やめろ……」
「あら、どうして?こちらとしては早く跡継ぎが欲しいから大事なことなんだけれど」
ニコニコ満面の笑みでそう言う蘭さんは、天然なのか確信犯なのか。イマイチ掴みどころのない人だ……。
「どうなの?教えて、ちぃちゃん」
「は、はい。ぼちぼち……」
慌ててとんでもないことを口走った私の後頭部を、土田さんがむせ込みながら軽く叩いた。
「まあ!レディを叩くなんて、恭也ったら!」
「頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ……」
「ご、ごめんなさい」
心底疲れた顔で頭を押さえた土田さん。
私がおろおろとしながら謝ると、頭を撫でられる。そんな私達の様子を見て、蘭さんは更に口角を上げて楽しそうに口元を押さえた。
ああ、たぶんさっきのはからかわれたんだな……。
「何はともあれ婚約おめでとう。恭也、ちぃちゃん。挙式の日程は決まっているの?」
「あー、いや……」
蘭さんの問いかけに土田さんは目を泳がせて言葉を濁した。
何もかも急だったし、これから海外転勤も控えている。明日婚姻届を出して、後日改めて戸籍謄本や住民票を発行してパスポートを作成しなくてはならない。
土田さんは業務の引き継ぎがあるし、私は退職届も出さなくてはならない。やることに追われていて結婚式のことまでは話せていなかった。