ハニートラップにご用心
自分の部屋に入って扉を閉める。秋の風の独特の匂いが鼻をつんと刺激して、身体を震わせながらくしゃみをした。換気のために開けっ放しだった窓を閉めて、急いでバッグの中身を漁る。早く着替えて暖かなリビングに戻りたい。
アイドルがライブ中に一瞬姿を消して行われる早着替えばりのスピードで下着、Tシャツとスウェットを着て部屋の扉を開ける。
条件反射と言うようにこちらを振り向いた土田さんは、今度はほっとしたような表情で私を見た。それから、頭の先からつま先までを舐めるように見て重たい口を開いた。
「……ほんと、期待を裏切らないわね?」
色気も何も無い無地のTシャツにダボつくスウェット。私の女子力の欠けらも無い服装を見て土田さんは飲んでいたお茶を吹き出しかけていた。
すっかり機嫌が戻った土田さんに胸を撫で下ろしながら、彼の座るソファーに腰を下ろした。
私の分のお茶も用意してくれていたようで、まだ湯気の立つマグカップがテーブルの上に置かれている。私が隣に座ったのを横目で見た土田さんはマグカップの取っ手に軽く指先を引っ掛けるようにして持ち上げてマグカップを私の前に置き直した。
ありがとうございます、と言ってマグカップを手に取ると土田さんは返事の代わりにふわりと優しく微笑んだ。釣られて私も口元を緩めて笑い返す。
「あ、今日ホラー番組やるんですね」
土田さんが視線を正面に戻して、それにならうようにして私もそちらを見た。そこにあったのは薄型のテレビ。
ちょうど前の時間帯の番組が終わり、次の時間に放送される番組のCMが流れていた。よくあるホラー番組の演出で、出演者達が悲鳴を上げている。
「……千春ちゃん、怖いの好きなの?」
私がホラー番組に興味を示すのを見て、土田さんは口をへの字にして引き気味にしている。
「苦手ですけど好きです」
「なにそれ」
好きだけと怖いものは怖い。この複雑な心境をどう表現しようかと数秒返答に詰まったあとそう答えると、土田さんは口元に手を当てて吹き出した。