ハニートラップにご用心
「……怖いもの見たさ?ですかね」
「ああ、なんとなくわかる気がするわ」
人間は恐怖を感じることで生を実感する、とどこかで聞いたことがある。
恐怖と無縁ののんびりした生活を送っているせいか、時々ホラー映画などを見たくなる時はある。ただ、やっぱり怖いので一人で観ることはできない。
「土田さん」
「なあに」
天気予報に突入したところで、退屈そうにまつ毛を伏せてチャンネルを回していく土田さんを見上げて、私は口を開いた。
「ホラー番組、一緒に見ませんか?」
自分のこの発言を後悔するのは数分とかからなかった。
「あのねぇ……」
テレビから聴こえてくる悲鳴に重なるようにして降ってきた土田さんの呆れたような声。私の位置からではその表情までは確認できないが、きっと目を細めてじとりと私を睨みつけているに違いない。
なぜ土田さんの表情を確認できないかと言うと、私が彼のカーディガンの裾を引っ張って自分の顔を隠しているからだ。
「それ見えてるの?」
「うっすら……」
カーディガンの繊維の隙間から申し訳程度に漏れてくるテレビの光。実際画面なんてほとんど見えていないけど、これが精一杯だった。
「ほら、もうエンディングよ」
「ほ、ほんとに……?」
ポンポン、と丸めた背中を叩かれてカーディガンから顔を出すと青白い顔をした血塗れの女性のアップが視界に入り心臓が止まりかける。悲鳴を上げることもできずに固まっていると、隣にいる土田さんが肩を揺らして笑いを堪えているのが空気の動きでわかった。
錆び付いた扉のようにぎこちない動作で彼の方に顔を向けると、土田さんは口角を上げて楽しそうに鼻を鳴らした。