ハニートラップにご用心

「千春ちゃんが一生懸命オネエについて検索かけてるとことか?」


しっかり見ていたんじゃないですか。

そう言いかけて、ぐっと堪えた。
ここで私が何か下手なリアクションを取れば彼に不快感を与えかねない。慎重に、言葉を選んで弁解することが賢明。彼が聞いてくれるかは別として。


「別にトラウマなんてないわ」


もう一度、先程と似たセリフを綺麗な唇から吐き出した。


「ほら、アタシって美しいでしょ?」


自己陶酔ではない。

事実だと言わんばかりにいつもと変わらないトーンで土田さんはそう言った。

実際、彼は恐ろしいくらいに整った容姿をしている。本当に同じ人間なのか、時々彼を見ていると言いようのない恐怖が襲って来るときがある。


その彼が今――何千年と洞窟で眠っていた氷の結晶のような、どこか冷たく神秘的な輝きを放つ瞳を、私に真っ直ぐに向けている。

その視線が、輝きが揺らぐことはない。


「千春ちゃんが来る前のことだけどねぇ……この見た目のおかげで、随分女の子達に騒がれちゃって、仕事にならなかったのよ」

「わっ……!」


土田さんは言葉の途中で、空いた手の方で私の視界を奪うように目を塞いだ。大きな成人男性のそれは、私を暗闇の世界に引きずり込むには十分なものだった。


「でもアタシ、運命だって思った女の子としかお付き合いするつもりはないの」


奪われた光が戻ってくる。一番最初に視界に飛び込んできたのは、目と鼻の先にある土田さんの整った顔だった。


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