ハニートラップにご用心
「私は土田さんが好きです」
「……千春ちゃん」
「でも、私は土田さんのことをほとんど知りません。一緒にいる時間が長いから、流れで好きになったんだと言われたら、否定できません」
半年以上の時間を一緒に過ごしても、上司と部下以上の関係ではない。
こうして事情があって同居をしていたって、彼の趣味嗜好や癖を知ることができても、過去を知れるわけじゃない。
それでも――それなら、私はこの人のことをもっともっと知りたい。この感情が恋じゃないなら、人はこれをなんと呼ぶんだろう。
「人を好きになることって、そんなに難しいことですか?」
私がそう言うと、土田さんの肩がピクリと力なく跳ねた。
彼はしばらく考えるように唸り声を上げたあと、何かの答えが出たのか力が抜けたように長いため息をついて、土田さんは私を抱きしめる腕の力を緩めた。
「ご、ごめんなさい……付き合って欲しいとか、好きになって欲しいとかそんなつもりはなくて」
「わかってるわ」
怒らせてしまったか見放されてしまったかと思い慌てて謝ると、土田さんは頭を押さえて首を横に振った。
「あなたの気持ちを疑ってるわけでも否定してるわけじゃない。でも、今はあなたの気持ちに応えられない」
「……それなのに、私を抱きしめたりするんですね」
ちょっと意地悪のつもりでそう言えば、土田さんは困ったような顔をして目を泳がせた。じとりとその顔を睨みつければ、しばらくして目と目が合った。
「もう少しだけ、待っていて欲しいの」