ハニートラップにご用心
「ごめんなさいね、千春ちゃん……」
「いいえ」
出来たての湯気が立つお粥を作って寝室に持っていけば、いくらか気力が回復したらしい土田さんがもそもそと起き上がる。
きちんと貼れていなかったのか、おでこに貼っていた冷却シートが剥がれてぽとりと布団の上に落ちた。
「身体が鉛みたいって、今みたいな時を言うのね……」
先ほど気力が回復した、と言ったが訂正する。土田さんは完全に意気消沈していた。寝ていても座っていても、言ってしまえば息をするのも辛いらしい。
お粥を食べるのにも体力を消耗するらしく、二、三口食べて土田さんの指先から力が抜けてスプーンがお茶碗の中に落ちる。
彼はそれ見て肩を落とし、ごめんなさい、ご馳走さま。と言ってお茶碗をぎこちない動作でベッドサイドの棚に置かれたトレイに戻した。
「えっと、解熱剤……飲んでくださいね」
解熱剤と言っても、私が持っていた解熱鎮痛剤だけど。
この高熱に効くのかはわからないが、とにかく少しでも熱を下げられるならそれに越したことはない。
ミネラルウォーターのペットボトルと薬を差し出すと、土田さんはふにゃりと笑った。
「口移しで飲ませて?」
語尾にハートマークがつきそうな甘い声音のそのセリフに、持っていたペットボトルを落としそうになった。