ハニートラップにご用心
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週末を全て療養に充てた土田さんは、仕事の始まる朝にはすっかりいつも通りに回復していた。
熱が下がってきてから病院に行ったところ、ただの風邪だったそうだ。
一日のほとんどを寝て過ごしただけで全快するなんてとんでもない免疫力だと関心したのと同時に、ため息をつきたくなった。
熱に浮かされて私に迫ってきたことを覚えていないのか、彼はいつも通りの対応、いつも通りの朝。いつも通りの挨拶で仕事を始めた。
私に一通りの事務仕事の指示を出して、午前中は営業に行って来ること、夕方に一度オフィスに戻って来ることを私に告げて土田さんは自分のデスクに戻る。
彼は営業回りに必要な物だけをカバンに詰め込み、コートを着て外出の準備が終わってしばらくしてから、意を決したように私の方を向いて口を開いた。
「千春ちゃん、あのね……」
「桜野ー」
土田さんが何かを言いかけ、それを遮るようにして近くにいた柊さんが私を呼んだ。
どちらに反応したらいいのかわからずに交互に彼らを見ると、土田さんは押し黙り、柊さんはこれ幸いといった表情で手招きをしてきた。
土田さんは苦笑を浮かべて、どうぞ、と私に手で合図をしたのを見て軽く会釈をして立ち上がる。
「は、はい。何でしょうか」
「悪いんだけど、これ至急コピーお願いできない?」
ドン、と振動音と共に置かれた紙の束に私は目を丸くして顔を上げた。柊さんはニコニコと人好きのする笑顔のままだった。
週末を全て療養に充てた土田さんは、仕事の始まる朝にはすっかりいつも通りに回復していた。
熱が下がってきてから病院に行ったところ、ただの風邪だったそうだ。
一日のほとんどを寝て過ごしただけで全快するなんてとんでもない免疫力だと関心したのと同時に、ため息をつきたくなった。
熱に浮かされて私に迫ってきたことを覚えていないのか、彼はいつも通りの対応、いつも通りの朝。いつも通りの挨拶で仕事を始めた。
私に一通りの事務仕事の指示を出して、午前中は営業に行って来ること、夕方に一度オフィスに戻って来ることを私に告げて土田さんは自分のデスクに戻る。
彼は営業回りに必要な物だけをカバンに詰め込み、コートを着て外出の準備が終わってしばらくしてから、意を決したように私の方を向いて口を開いた。
「千春ちゃん、あのね……」
「桜野ー」
土田さんが何かを言いかけ、それを遮るようにして近くにいた柊さんが私を呼んだ。
どちらに反応したらいいのかわからずに交互に彼らを見ると、土田さんは押し黙り、柊さんはこれ幸いといった表情で手招きをしてきた。
土田さんは苦笑を浮かべて、どうぞ、と私に手で合図をしたのを見て軽く会釈をして立ち上がる。
「は、はい。何でしょうか」
「悪いんだけど、これ至急コピーお願いできない?」
ドン、と振動音と共に置かれた紙の束に私は目を丸くして顔を上げた。柊さんはニコニコと人好きのする笑顔のままだった。