ハニートラップにご用心


柊さんに教えてもらった土田さんの誕生日は一週間前に迫っていた。付箋に書かれていた電話番号にかけると、やはり出たのは柊さんだった。

他愛もない雑談をして本題の土田さんの誕生日のことになり、話の流れで柊さんと一緒にプレゼントを買いに行こうということになったのだ。土田さんの好みも、男の人が誕生日にもらって嬉しいものも何もわからないので私は二つ返事で了承した。

そして、週末の今日。
仕事が終わった後に柊さんと街までプレゼント選びに行くことになっている。


「は?」


詳しいことは伏せて今日は仕事終わりに遊びに行くので遅くなる、と土田さんに告げたところ、彼は思い切り眉根を寄せて聞いたこともないようなドスの効いた低い声で聞き返してきた。

終業時刻を少し過ぎて私達以外誰もいないオフィスとはいえ、そんな風に素を出してしまっていいのだろうか。

色々な意味で恐れ戦いていると、土田さんは不機嫌であることを取り繕うつもりはないらしく、デスクに頬杖をついた。


「誰と?何時に帰ってくるの?」


少し前、親睦会と称した合同コンパに騙される形で連れて行かれたことがあるから、少し神経質になっているのだろうか。


「え、えっと……職場の人、です……十時くらいには、帰りたい、です……」


トン、トン、と一定のリズムでデスクを指先で叩く土田さんに萎縮しながら途切れ途切れにそう告げる。
仕事でミスをしてもこんなに怒られないのに、一体土田さんは何に対して怒っているのだろう。


「……で?今度はどんな会なの?」


美形の怒った顔は怖いと聞くけど、全くのその通り。深く刻まれた眉間のしわとつり上がった目尻に悲鳴を漏らしそうになりながら、自分を守るように抱きしめた。


「ふ、二人でショッピングに行くだけですよ?」

「ふーん」


嘘は一切ついていないのに、罪を暴かれ咎められているような気持ちになるのは何でだろう。
俺に伝えるべきことはそれで全部か、と言いたげに土田さんはじとりと目を細めて私を睨みつける。

本当のことを言ってしまいたいけど、まさか本人に「あなたの誕生日プレゼントを買いに行きます」なんて言えない。出来ることなら土田さんに知られずにサプライズで渡したいのだ。


「……二人きりで、ねぇ」


そう呟いて、土田さんは深く息を吐いたかと思えば気持ちを切り替えるように、にっこり笑った。


「わかったわ。夕飯はいる?」

「あ、いえ……大丈夫です。すみません」


二十一時を過ぎたら何も食べないと決めている。太るから、というのもあるが夜にご飯を食べてしまうと朝起きた時に消化不良から酷い吐き気に襲われる体質だからだ。

私が頭を下げると、土田さんは「じゃあ、先に帰ってるわね」と言って私と目も合わせずにオフィスを去っていった。

……土田さん、やっぱり何か怒ってる?



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