ハニートラップにご用心
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私の所属する会社のあるオフィス街から十五分ほど歩いた場所にある大通り。洋服から靴、アクセサリーと世界的に有名なブランドの店が立ち並ぶ豪華絢爛な通りだ。
駅を出てすぐにある噴水はよく待ち合わせに利用される有名なシンボルだそうだ。
指定されたその場所でキョロキョロと辺りを見渡していると、後から肩を叩かれて振り向いた。
「やっほ」
「ひ、柊しゃ……」
振り向きざまに頬に指を突き刺され完全にしてやられた、と軽いショックを受ける。
無様に唇を突き出しているであろう私を見て、待ち合わせをしていた人物――柊さんがふはっと口を開けて笑った。
ふと、頬に触れる指先の冷たさと赤くなった鼻からこの寒い中でかなり待たせてしまったのかと思い慌てて頭を下げた。
「す、すみません!遅くなってしまって!」
「お、おう……?そんな待ってないって」
私の謝罪の勢いに気圧されたらしい柊さんは一歩後ろに下がって降参のポーズを取った。
「ほ、ほんとですか」
頭を下げたのと同じ勢いで顔を上げると柊さんはビクッと肩を跳ねさせて、左胸に手を当てて息を吐いた。
「あのー、もうちょっと落ち着いて行動できる?心臓に悪くて……」
「え、す、すみません!」
「いや、怒ってないけど……」
普段はオフィスで一言二言交わすだけの仲の上司、しかも異性。
職場以外で会うとどうにも緊張してしまい挙動不審にもなる。緊張でガチガチに固まり動きが油の差していないロボットのようになる私を見て、柊さんは焦げ茶色の瞳を丸くして、ぱちくりと瞬きをした。
それから口元を押さえて肩を震わせたかと思えば、ぷはっと吹き出した。
「桜野、ほんと面白いわ」
そう言いながら、柊さんは私の頭の上に手を置いた。反射的に顔を上げると、柊さんは小動物を愛でるように穏やかな微笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
「……子供扱いやめてください」
私に兄がいたらこんな感じなのかな、と思いながら頭に置かれた手を軽く払い除けた。土田さん以外の男の人に頭を撫でられたのは初めてだ。