ハニートラップにご用心
真剣な表情で、迷いも躊躇いもない黒い瞳が熱を帯びて私を見つめてくる。
このパターンに入った時は私がどんな抵抗をしても結局彼のペースに巻き込まれるしかない。
服の上から土田さんの大きな手が私のお腹のあたりを撫で上げる。くすぐったさを堪えて目を瞑って耐える。こんな時に言うことではないかもしれないけど、そういえば、と思って私は目を開けて彼の瞳を見つめ返した。
「い、いつも……最後までは、しないですよね」
何の気なしに聞いた私の言葉に、土田さんは目を見開いて口をつぐんだ状態で固まった。
正直、私をどうにかするチャンスなんていくらでもあった……というか、「あ、これは今日こそ食べられるな」って思ったことも何度かあったけどいつも寸止めで、絶対に一線は超えて来ない。ギリギリな際どいことをしてくるくせに。
毎日のようにこうして触れてきて、私だけ余裕をなくしていっぱいいっぱいになって、でも土田さんは絶対に私に触れることを求めない。
男性経験のない私は彼にどう触れたらいいのかなんてわからないから、自分から触れるようなことだってしない。
「……して欲しいのか?」
ゆっくりと、言葉を選ぶように土田さんが返事をする。いつものオネエ口調ではない。突然男性口調に切り替えるものだから顔が熱くなってしまう。
普段のオネエ口調だとあまり意識せずに済むけど、男性口調に戻されるとこの人の顔面偏差値の高さに直面させられるから本当に心臓に悪い。同時に柔らかく穏やかな表情から、クールで男らしい色気のある表情に切り替わるのだってずるい。
私はそっと土田さんの顔から視線を外してうつむく。すると、目をそらすなと言わんばかりにあごを軽く指先で押し上げられて再び彼と目が合う。
「……っ、土田さんは辛くないのかな、って思って……」
勇気を出して考えていたことを告げれば、土田さんは一瞬またフリーズしたあと、すぐに吹き出して笑い声を上げた。
「俺は好きなものは最後に食べるタイプだから」
若干答えになってない気もするけど、土田さんのことだから何かしらの意図があってのことなんだろう。
それ以上の追及はせずに、降ってくるキスの雨に目を閉じて身を委ねた。