ハニートラップにご用心
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「おはよう、桜野」
溶けた雪の水分によってブーツを侵食され、大変不快な気持ちで出勤したところ、更にテンションの下がる事態になった。
何を考えてるのかわからない、今となっては恐怖すら覚えるその満面の笑みに警戒心を剥き出しに彼から距離を取る。
「お、オハヨウゴザイマス……柊さん」
「酷っ、露骨に避けんなよ。仲良くしようぜ」
声では悲しんでいるものの、その表情はすごく楽しそうで私は一層警戒心を強めて持っていたトートバッグを目の前に掲げて盾にする。
この人がわざわざ私の方に来て話しかけてくるってことは、何か企んでいるか土田さん絡みのことを尋ねて来る時だ。彼のペースに飲み込まれないようにしなきゃ。
「まあ、とりあえず座って座って」
手にしていたコートをそつのない動作で取り上げられてハンガーに掛けられる。それから柊さんは嬉々として私の肩を掴んで自分のデスクに私を座らせて、近くにあった予備のパイプ椅子を持って私の隣に座った。
現在、このオフィスには私と柊さん以外の人はいない。一緒に出勤した土田さんは朝一番で上の人に呼び出されたので不在だ。
念のため、というように柊さんは周囲を見回して人気がないことを確認して、私の耳に口元を寄せた。