ハニートラップにご用心
「お疲れさま、千春ちゃん。今日はもう遅いし帰りましょう」
「つ、土田さん……お疲れさまです」
先輩達の頼みを断ることができずに引き受けてしまった私を見かねて、本来は土田さんはやらなくてもいい事務の仕事をここまで手伝ってくれたのだ。
上司に仕事を手伝わせるなんて、と最初は丁重にお断りしたのだけど、一人でやって終わる量じゃないと言われて言葉を詰まらせたのは数時間前。感覚としては何日も前に感じる。
「いいんですか?まだ、頼まれた仕事が……」
「あとでアタシの方から押し返しておくから気にしないで。平気で後輩に仕事を押し付けて給料泥棒しようとする奴を先輩だと思わなくていいわ」
デスクに山積みにされた書類を上からガンッ、と叩きつけるように手を乗せた土田さん。表情はいつもと変わらずに穏やかなものだけど、たぶんこれ内心すごく怒ってる。
土田さんの手元にあった書類と私の手元にある書類をファイルにまとめて、土田さんはデスクの一番下の引き出しにしまって、鍵を掛けた。本来私がやるべき仕事は終わった。だからもうやらなくていいということらしい。
「す、すみません土田さん。私に付き合って帰りが遅くなってしまって……」
土田さんがマフラーをしてコートを着始めたのを見て私も慌ててコートを着る。
「いいのよ。ちょうどこの時間に予約していたから」
「予約?」
何のことかわからずに首を傾げると、土田さんは指先を口元に当てて笑った。
どうやら行けばわかる、ということらしい。