悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
もちろん身分を隠すためであることはわかっているけれど、近侍が主君に向けて、呼び捨てにするなんて……。

どうやら調子を崩して困惑しているのは私だけのようで、王太子は「そうだね」と平然と返事をし、老人に銀貨を二枚渡して、馬の準備を頼んでいる。

老人が戸口から離れて馬のいる家の裏手へと歩いていったら、王太子は「どうした?」と戸惑う私に問いかけた。


「い、いえ。殿下、どうかお気になさらないでくださいませ」

小声で答えた私を、彼はいたずらめかした声で「こら」と叱る。


「聞かれるかもしれないから、かしこまった返事は駄目だよ。もっとくだけた言葉遣いにして」


そんなことを言われても、庶民的な話し方をしたことがないため言葉に困る。

目を泳がせるしかできない私をクスリと笑い、彼は私の肩を抱き寄せた。

その行為に心臓を跳ねらせたら、響きのよい声で耳元に囁かれる。


「俺の妻を演じてもらわないと。『あなた。なんでもないのよ』これが正解だ。言ってごらん?」

「そんなこと言えませんわ!」

「だったら、レオンでもいい」


弓なりに細められた青い瞳に、至近距離から顔を覗き込まれる。

ためらいながらも「レ、レオン……」と振り絞るように口にしてみた私だが、その後に「様」を付け足してしまった。

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