悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
お世辞や場の雰囲気に合わせようとしたのではない。

口に広がる濃厚な旨味。それでいてさっぱりと食べやすく、ヤギ乳の独特な臭みは一切ない素晴らしいチーズに感動していた。

そんな私の様子に嬉しそうに目を細めた王太子は、飛び上がるようにして馬上に戻り、手綱を握る。

手を振って私たちを見送る老人に、「ビセットじいさん、ありがとう」と彼は言い、私も自然と「ありがとうございました」と明るい声でお礼を述べていた。

馬を歩かせる王太子のクスリと笑う声が、耳元に聞こえる。

なにか意味ありげな笑い方に聞こえて、視線を合わせようとした私だが、「飛ばすよ」と言われて馬が走り出したから慌ててしまい、彼の瞳を覗くことはできなかった。


「俺の体にしがみついていて」


そんな恥ずかしいことは……と拒否できない状況にいた。

手綱を持つ彼の両腕の中に入っていても、大きく揺れる馬の背で、横坐りでバランスを取るのは難しい。

落ちそうな気がして、焦って彼の胴に両腕を回して掴まっていた。

そうすると、どうしても感じてしまう。

男らしい筋肉の質感や、温かく脈打つ彼の鼓動。

汗の香りもするけれど、それは少しも不快ではなく、むしろ爽やかな香水のように私の鼻孔をくすぐっていた。

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