悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
形のよい唇は意志を持って引き結ばれ、急に真顔になる彼。

口を開けばすぐに柔らかな笑みが戻されたが、「なにが起きても、俺はどこにも逃げないけどね」と付け足された言葉は、きっぱりと力強く響いて聞こえた。


そよ風が王太子の胡桃色の前髪を揺らす。

心地よい日差しを浴び、平和な小鳥のさえずりを聞きながら、私は眉を潜めて彼に意見した。


「恐れながら申し上げます。お血筋を絶やさぬことが、王太子殿下の使命であられるはずです」


万が一の際に、彼が逃げずに敵兵に命を取られたら、王家が滅んでしまうかもしれない。

それなのに、どこにも逃げないなどと、おかしなことを言う彼を諭したつもりでいた。


フッと口元を緩めた彼は、不愉快そうにせずに「正論だね」と私の意見を受け止めてくれる。

前髪をかき上げ、水色の空を眩しそうに仰ぐその姿は麗しい。

農民風の質素な服装をしていても、貴族的な気品と風格はどうしても表れてしまっていた。


「オリビアの意見はもっともだよ。それでも俺は逃げない。王家を守るために家臣たちが死んでいくのを、安全な場所から眺めていることはできそうにない」


臣下の者を思い遣る優しいお心は素晴らしいと思うけれど、そんなの綺麗事だわ……。

彼の考え方にどうにも納得できず、私の顔はしかめられたまま。

それに気づいた彼は苦笑して、頭巾を被っている私の頭をよしよしと撫でた。

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