悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
そのとき視界の端の、開け放してあるドアの方に人影が映った。

ハッとして横に振り向けば、つらそうに顔をしかめた王妃が、共もつけずにひとりで立っている。


「王妃殿下、どうしてここに……」と私が呟けば、レオン様の肩が大きく震えた。

私の胸から顔を上げて母親を見た彼の目は、怒りをぶつける余力もないというように弱々しく揺れている。


私の問いかけに対し王妃は「衣装部屋を見にいったのよ。そうしたらーー」と言葉を切って、ため息をついた。

その先は説明不要でしょう、と言いたげに。


そういえば鍵を見つけた興奮で、私はキャビネットの引き出しを開けっ放しにし、外した二重板や鍵の入っていた布袋もそのままにして衣装部屋を飛び出してしまった。

ここに忍び込んだことが王妃に気づかれるのは、時間の問題だったみたい。


もう一度ため息をついてから、王妃は部屋に入りドアを閉めた。

それから部屋の奥までいって、自らの手で暖炉に薪を入れて火をつけ、戻ってくると「座って話しましょう」とテーブルセットの布張り椅子に腰掛けた。


椅子から埃がふわりと舞う。

私たちも椅子に座るべく立ち上がろうとしたが、レオン様がふらついて、また床に膝を落としてしまった。

彼が受けた衝撃は、立つことも難しいほどの甚だしいものだということだ。

生まれたときから王太子であった自分の存在が、今まさに崩れ落ちようとしているのだから無理もない。

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