悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
寝ていたところを起こされた様子で、あくびをしながら出てきてくれたビセットさんは、私を見て少し驚いてから、皺だらけの顔でホッホと笑った。


「いつぞやのお嬢ちゃんか。血相を変えて、どうしたのかの。お前さんの旦那も、馬を借りにきたぞ」


ビセットさんは私の顔を覚えてくれていた。

あの時は村娘の格好をして、レオン様の妻だという嘘の話をした。

どうやらそれを信じているようだ。


レオン様が馬を借りにきたというので、それはどれくらい前のことかと尋ねれば、真っ白な口髭を撫でつつ、老人は呑気に答える。


「寝ようとしとった頃だから、二十二時くらいかの。今日はチーズをくれてやらなんだ。わしがみんな食べてしまって、残っておらんかったからな」


ビセットさんの作るヤギ乳のチーズは絶品だったけれど、今はそんな平和な会話をしていられる状況ではない。

焦りを顔に浮かべて「私に馬を貸してください」と頼んでから、お金を持ち合わせていないことに気づく。


「ああ、どうしましょう……。そうだわ。代金の代わりに、これではいけませんか?」


被っていたフードを落として、横髪に留めている銀のバラの髪飾りを指差した。

レオン様にいただいた宝物だけど、金目の物はこれしか持っていないのだ。

ビセットさんは目を瞬かせ、それから、いいとも悪いとも言わずに、「ちょっと待っていなさい」と一旦、家の中に戻っていった。


裏口から馬小屋の方に出たのか、しばらくするとビセットさんは、鞍をつけた白馬の手綱を引いて家の裏手から現れた。

その姿は粗末なマントに手袋と、外出する格好になっている。

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