悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「これが嬢ちゃんの旦那に貸した馬なんじゃが、いつの間にか馬だけが帰ってきておった。手綱にこれを結びつけてな」


見せられたのは小さな布袋で、【馬をありがとう】と書かれた短い手紙と、金貨が一枚入っていた。

それを無造作にズボンのポケットに突っ込んだビセットさんは、なぜか私に貸すはずの馬に跨った。

そして、私に向けて手を伸ばす。


「馬を貸せと言っても、嬢ちゃんひとりでは乗れんじゃろう」


その指摘はもっともで、私は「あ……」と間抜けな声を漏らした。

知識として馬の扱い方を知っていても、今までひとりで乗ったことはない。

そんな私が山道に馬を走らせることは、危険でしかなかった。


「駄賃はいらんよ。いや、嬢ちゃんの旦那から金貨をもらってしまったからの。余るほどじゃ」


そう言ってビセットさんは、私を乗せてくれようとしている。

彼の親切はありがたいことだけど、私はその手に掴まることをためらった。

王家の秘密の避難場所に、ビセットさんを案内するわけにいかないからだ。

それなら途中で降ろしてもらえばいいかと考えたが、なにもない山道で降りると言えば、怪しまれてしまいそう。
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