悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
あの六角形の部屋に、変装用の服は置いていなかったし、慌てていたから服装のことまで気が回らなかったが、確かに私のマントもその下のデイドレスも貴族的である。

レオン様はきっと私のような理由ではなく、二度とビセットさんに馬を借りにくることはないと思ったから、変装しなかったのかもしれない。

私たちが貴族的であることはバレて当然かもしれないが、ビセットさんの口振りからは、ずっと前からレオン様の正体に気づいていたような節が窺えた。

わかっていながら騙されているふりをして、『知らん、知らん』と言ってくれるビセットさんに、感謝の気持ちが込み上げる。


そういえば国王陛下も同じことを言っていた。

『わしはなにも知らん。誰もなにも気づいておらんよ』と。


レオン様に関わる人たちは皆、優しい人ばかりね。

それは彼が、どんな人からも愛される人格者であるからに違いない。

それを教えてあげなければ……。


白馬は山道を駆け上がり、見覚えのある岩場の前で足を止めた。

ここで私は馬を降りる。

ビセットさんは岩の隙間の先にある隠し扉についてはなにも触れず、ただ「気をつけてな」と言い残して、引き返していった。
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