悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
王都には雪が降らないが、冬山の中腹は薄っすらと雪が積もり、強い風で巻き上げられて景色が白く煙って見える。

厚手のマントの下でも寒さが身に染みるようで、体を震わせながら、私は冷たい岩の裂け目へと入っていった。


進むにつれ、鼓動はドクドクと嫌な音で速く強く鳴りたてる。

どうか間に合って……。

レオン様の身を案じ、焦る気持ちを抱えて、鉄の扉の前にたどり着いた。

ドアは拳ひとつ分ほど開いており、勢いよく開けて駆け込んだ三歩目で、私の足はピタリと止まった。


これは……。

広がる光景があまりにも美しく幻想的で、神の夢の中に迷い込んだのではなかろうかと、目を疑っていた。


高い岩壁に守られたこの場所は、風が弱く寒さも和らいで、丸くくり抜いたような紺碧の空には大きな満月が浮かんでいる。

滝も小川も凍りつき、地面はシルクで覆ったように滑らかで白く、チラチラと舞い降りる雪は青白い月光を浴びてダイヤの粒のように輝いていた。

童話の挿絵のような小さな家も、リンゴや胡桃の木も、なにもかもが白く染められて、冬の装いをしたこの場所は神秘的なまでに美しい。


思わず私は感嘆の息を漏らす。

なんて神々しいの……。


その景色に溶け込むようにして、静かに佇んでいるのはレオン様だ。

この白き空間の中央に立ち、天を見上げてじっと動かない。

入ってきた私にも気づかずに、ただ月に視線をとめている。
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