悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
彼は肩章のついた紺色のマントを羽織り、その下は軍服のようだ。

正装をしているレオン様は凛々しくて男らしいが、月を見上げる横顔はガラス細工のように繊細で麗しく、どこか儚げに見えた。

青い瞳は泉のように静かに透き通り、今の彼の心には微かな乱れもないように思える。


彼までの距離は四馬身ほどで、声をかければ聞こえるであろうけれど、私はなにも言えず、呼吸さえ潜めて、その神聖な美しさに魅入ってしまっていた。

すると、まるで絵のように微動だにしなかった彼の右手が動いた。

マントの下から引き抜いたのは、腰に差していたサーベルで、それを天に掲げる。

月光を浴びる全てのものが美しく見えたのに、キラリと光る刃だけは不吉に思えて、私の肌が粟立った。


「や、やめて……」

震える声では、彼に届かない。

「おやめくださいませ、レオン様!」

今度は叫ぶように呼びかけたのに、彼の心はどこか別の世界をさまよっているのか、視線は私に向けられず、なんの反応もしてくれなかった。


彼を失うという強い恐怖に突き動かされ、慌てて私は駆け出した。

それと同時に彼が自分の首にその刃をあてる。


「嫌ですわ! レオン様!」


刃がその首を滑る寸前で私の手が届き、鋭利な刀身を両手で掴んで彼から引き離そうとした。
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