たった一度のモテ期なら。
IT化が進んだはずの社内で、私は今日も紙と戦っている。今月分の確認があらかた終わってくると、予想通り足りない書類に気付かされた。

「また全く出てないんです」

「営業二課? もう毎月の定例だね」

相談してみても上司の経理課長は穏やかに笑うだけだが、この報告だけで済ましてくれるわけではない。

毎月の経費申請が遅い上に、共に経理に送られてくるはずの領収書等が届かない。よって会計処理が完了せず、月次決算に遅れが出る。

すなわち、私たち子会社的にはあってはならない事態につながりかねない。

幸い今までは何とかなってきたからか、改善する見通しが全くない。


「富樫課長には再三お願いしてるんですけど。課長からも言ってもらえませんか?」

「僕も言ってるんだけどねぇ。女性のいうことのほうが聞く人だからさ、頼むよ」

「私だったら喜んじゃうけどね、貴公子に会いにいく用事があったら」

経理の裏番と呼ばれる北尾さんが言う。でも代わってはくれないくせになぁ。



同期飲み会でも『貴公子』って噂されてた富樫課長は、グループ本社から今年出向してきた若きやり手。

30才に満たない課長なんてうちの社内出世だったらまずないが、営業二課の成績の底上げをを行うために呼ばれたエリートだそうだ。

背が高くて爽やかで、いつも顔を上げて歩いてるような人。貴公子というあだ名も分からなくはない。

でも私の仕事にはそんな華やかさは関係ないんです。


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