たった一度のモテ期なら。
「……その時は、非常ボタンに背が届かなかったの?」
子どものときって小学校低学年くらいかなと思って聞いてみると、西山は深く息を吐いた。
「そう。かくれんぼだかおにごっこだかやってたから友達にも気づいてもらえなくて、呼んでも叩いても誰も来なくて、めちゃくちゃ怖かった」
抱きしめているようだった腕が緩んだ。西山も落ち着いてきたんだったらいいけど。
「なあ、俺といて怖いとか思わないの?」
「さっきはびっくりして怖かったけど、もう平気。1人だったらと思うともっとゾッとする」
「そうじゃなくて。何されるかわかんないだろ、こんな密室で。前科もあるわけだし」
前科って。犯罪者みたいに言うんだね。
「何笑ってんだよ」
「怖くなんかないよ、西山だもん……私ね、モテ期なんだって。男の人の気を引いてるって綾香も言ってたでしょ」
「それモテ期と関係ないし、影森は自覚ないだろ」
「無自覚にはやってると思う?」
「まあ、勘違いさせたりはしてると思う。言っとくけど今も。抱きついて励ますとかやめとけ」
そう言って、西山は急に私を押し戻した。そうか、さすがに今そんなつもりなかったんだけど、励ましには不適切か。