たった一度のモテ期なら。
「小林くんにも、勘違いさせちゃったみたい」

「なんか言われた?」

「キスされて。急だったから、びっくりした」

反応も相槌も返ってこなかった。こんなこと聞かされても困るよね。

「私も悪かったのかなって」

「そんなの男の方が悪いに決まってるだろ。俺も同罪だけど。でももうちょっと危機感持てよ。って俺が言えた義理じゃないけど」

謝ってるのか怒ってるのかわからない変な西山だ。



ねえ、でも同じなんかじゃないよ。嫌だったの。西山じゃなくて嫌だったの。

「嫌だったの」

「うん、ごめん」

「だから、上書きして?」

言葉は勝手に口から滑り出ていて、上目遣いになったし声も媚びてるなってぼんやり気づいていた。こんなこと言えるって、私は意外と噂通りなのかもしれない。

一瞬呆気にとられた顔をしていても、きっと西山は断れないとなんとなくわかって目線を落とす。

目の前の喉仏が少し動いて、スローモーションみたいにゆっくり顔が近づくのを感じながら目を閉じた。

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