寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「……出てるけど」
彼の声は、シャーっという音に紛れて聞こえてきた。
……嘘。お湯が出てる? それじゃ昨夜はたまたま? 嘘でしょ……。
「はぁ……」
深い深いため息を吐く。私の運の悪さを証明しているも同然だった。
それにしても見ず知らずの女の部屋で意識のないまま一夜を明かし、目覚めてすぐにシャワーを借りようとするその勇気には驚かされてしまう。
普通だったら『申し訳ありませんでしたー!』と一目散にこの部屋から出て行くものじゃないのか。
それとも私の考えがおかしいのか。
しみじみ働き口も見つからない私は、社会常識からもかけ離れてしまったのか。
頭を振り振り部屋へ戻ったところで時計を見て、大事なことを思い出した。
今日も一社、筆記試験があるのだ。
時刻はすでに午前七時。急いで支度をしなくては。
まずは朝ごはんを食べようと冷蔵庫を漁り、ちくわと玉子を取り出した。
鍋で煮て玉子を回しいれるだけのお手軽なちくわ丼だ。
完成した丼を持ち、テーブルに着いたときだった。