寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
すると彼は「いただきます」と丁寧に手を合わせ、早速箸を付ける。
よほどお腹が空いていたのか、言葉をなにひとつ発さないまま黙々と食べる。
背筋をピンと伸ばし、箸の運び方から使い方、どれをとっても美しい所作だった。
きっといいところの育ちなのだろう。
それから少しすると彼はゆっくりと箸を置き、「うまかった」とポツリと呟いた。お腹の底から漏れたような声だった。
どんぶりの中を覗いてみれば、ごはん粒のひとつも残っていない。
「ありがとう……ございます」
手料理を褒められたのは初めてだった。
「本当にうまかった。こんなにうまいと感じる手料理は初めてだ」
それはさすがに大袈裟だとは思ったけれど、初めてそう言われて悪い気はしない。
「でも、五十円の倹約丼ですから」
「これが五十円?」
「はい。あまり贅沢できない生活なので」
必然的に食費をなるべくセーブするようになってしまった。