寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「はい。昨夜から今朝にかけまして、理玖様がこちらに大変お世話になったと」
「……ああ!」
人差し指を立て男性に突き出してから、無礼なことをしてしまったと慌てて手を下ろす。
それが誰であるか思い当たった。部屋に上り込み、そこで寝て、シャワーを浴びるだけでなく、朝ごはんまで食べていったあの男の人だ。
そういえば、『お礼はあとで』と言っていたような気がするけれど……。
名前に様付きで呼ばれるくらいなのだから、様子からしてこの人は彼の執事といったところなのかな。
「お礼なんて必要ないですから」
なにか特別なことをしたわけではない。
なにごともなく済んだことだけで私には十分だし、お礼なんて仰々しすぎる。
「いえ、そういうわけには参りません。くれぐれもと何度も念押しで頼まれておりますゆえ」
「本当に大丈夫ですから」
「いいえ、それは困ります」