寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
終わりの見えない押し問答が始まってしまった。
柔和な顔をしている初老の男性はなかなか手強く、私がいくら断っても一歩も譲る気配がない。
「さぁ参りましょう」
とうとう私のほうが根負けしてしまった。
取るものも取りあえず、大わらわでベージュのチェスターコートを引っかけ、気が進まないまま男性のあとに続く。
アパートの前には、おんぼろアパートには不釣り合いな黒い高級車が街路灯を浴びてピカピカに光り輝いていた。
それにしても彼は昨日の夜、どうしてあんな状態で私の部屋にやって来たのだろう。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
男性の背中に問いかける。
彼は「なんでございましょうか」と振り返り、手を前で組んでかしこまりながら歩いた。
「昨日の夜、彼はどうして私の部屋に……」
「はいはいはい」
小刻みに頷きながら、「ごもっともな問いかけでございますな」と言う。