寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

風見さんが息を飲んだような気配がした。
そしてその息を今度は短く吐き出す。


「どうして言わなかったんだ」


そう言われるとは思いもせず、「えっ」と言ったまま固まる。
私の誕生日なんて、風見さんが気にかけるような日じゃない。


「とりあえず乗って」

「でもすぐですから」


歩いてそれほどかかる距離じゃない。


「いいからおいで」


背中を押されて後部座席へと乗せられてほんの一分、彼のマンションの前に着く。
寺内さんに「おやすみなさい」と挨拶をし、風見さんのあとを追った。

部屋に入り、ネクタイを緩めながら彼がソファに深く腰を下ろす。
漂ってくるのは、ただならぬ重い空気だった。


「お茶でも入れましょうか……?」


明るい口調で言ってみたものの、風見さんは「いや、いい」と私を手招きする。

< 184 / 318 >

この作品をシェア

pagetop