寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
その日、理玖さんは退勤時間になっても会社に戻らず、試しに電話をしてみたスマホは電源が切られていた。
ロッカールームで帰り支度をしていると、ちょうどそこへ沙智さんがやってきた。
「ねぇ、茜、社長を追ってアメリカから恋人が来たって社内中の噂になっているんだけど、本当なの?」
「……その話をどこで聞かれたんですか?」
「総合受付から聞いて。美女が『理玖はどこですか?』って来たって言うから。アポイントがないと無理だって言ったら、警備員の制止も聞かずに社内へ入っていったみたい」
沙智さんが言うには、通路ですれ違う人を捕まえて、社長室の場所を聞いて突入したらしい。
アメリカにいた頃の理玖さんを知っている従業員が、『彼女は恋人だ』と言っていたそうだ。
「向こうでお世話になっていた弁護士の娘さんで、彼女も新米弁護士なんだって」
「……弁護士? ひょっとしてスコット・ジョーンズさんですか?」
私が名前を挙げると、沙智さんは視線を右上から左上へと彷徨わせて、「確かそんな名前だったかな」と言った。