寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~

以前、ミヤコのオフィスへ行ったときに理玖さんと足立社長が話していた人物だ。

ああやっぱりと思わずにはいられなかった。
理玖さんが私を好きになるはずがないのだ。
なによりの決定打をもらってしまった。
その場に座り込んでしまいたい気持ちをなんとかこらえる。


「沙智さん、お願いがあるんですが……」

「どうしたの?」


私の神妙な顔を見て沙智さんが首を傾げる。


「今夜、沙智さんの部屋に泊めていただけないでしょうか……?」


エイミーさんが理玖さんの恋人なら、私が彼のマンションにいるわけにはいかない。
それに今夜は、理玖さんと顔を合わせられる自信もない。

明日は高校時代の友人の結婚式があるから、一泊で実家へ帰ることになっている。
とりあえず今夜ひと晩は沙智さんの部屋に泊まらせてもらって、結婚式のあとのことは、またそれから考えよう。


「もちろんいいけど、なにかあったの?」

「あ、いえ、その……」


なんて言ったらいいのかわからずに口ごもっていると、沙智さんは「ま、いいわ。話はそのときに聞かせてもらうわね」と住所と簡単な地図を渡してくれた。

急いで帰ったマンションで荷物を詰め込んで彼女の部屋へと向かう。
理玖さんに置き手紙を残そうと思ったけれど、なにをどう書いたらいいのかわからなくてできなかった。
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