寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
仕事の合間を縫って、私は副社長室へとやってきた。
沙智さんと顔を合わせるのは、友達の結婚式の前に泊まらせてもらったきり。
心配をかけてしまうだろうと、メールでは『解決しました』とだけひとまず送っておいたものの、私が理玖さんのマンションから飛び出したままだと思っている沙智さんに報告をしにきたのだ。
沙智さんは私の顔を見るなり、「本当に大丈夫だったの?」と私の手を取り通路へと出る。誰もいないことを確認して、「社長とは?」と小声で聞いた。
「実は結婚式の会場に迎えに来てくれまして……」
「え!? 宮城まで!?」
沙智さんは声のトーンを落としたまま驚きにのけ反る。
「はい、それでなんとか……」
私たちの間にあったことは恥ずかしくて詳細には話せない。
「それじゃ、マンションに戻れたんだよね?」
「はい」
「よかった。解決したってメールだけじゃわからなくて。心配してたの」
「ご心配をおかけしました、ありがとうございます」
電話でもできればよかったのだけど、なにしろ時間に余裕がなく、理玖さんにもそんな隙も与えてもらえなかった。
「ううん、とにかくよかったね」
嬉しそうな沙智さんに見送られ、私は社長室へ戻った。