寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「そちらにお着替えの上、二十階のフレンチレストラン【マラッカ】へお越しくださいませ」
「え、あの……」
「風見様はそちらでお待ちでございます」
女性スタッフはそう言って退室してしまった。
風見様って、さっき寺内さんが言っていた“理玖様”のことだよね……?
ラックにはベージュの上質そうなワンピースがかけられていた。傍らにはかかとが七センチはありそうなパンプスが置かれている。
これに着替えろってこと……?
とにかくここまで来てしまったからには、着替えて店に向かう以外にない。清水の舞台から飛び降りるつもりで、着ているものを脱ぎ去った。
ワンピースはほどよい凹凸のある小さなフラワーデザインが施され、ウエストにはベルベット素材のリボンが添えられている。こんな洋服は着たこともない。
おそるおそる袖を通し、鏡の前に立つ。
着ているものが違うだけで、なんだか気分がハッピーになるから不思議だ。
それだけでいつもの私とは別人になれた気がする。
慣れないヒールでぎこちなく歩きながら、指示されたレストランへと急いだ。