五感のキオク~記憶の中のアナタの声~
さすがにバーまでは彼の(声の)亡霊は追いかけてこないだろう。

確かあのお店でかかっていたのはジャズだったはず。

記憶をたどりながら店のドアを押す。

オープンして間もない時間だから人は他にいない。

でもそれが逆に私を落ち着かせてくれた。



カウンターに座ると、目の前に置かれたメニューを見る。

当時の私は普段は居酒屋しか行った事がなかったし、お酒の味なんてわかるはずもなかった。

いつも勧められたものを飲んでいて、今となってはそれがどれだったかなんて覚えてない。


「キールを」


女子会で覚えたワインのカクテル。

ワインベースなら間違いないだろう。

あのころから比べれば、少しは味もわかるようになったはずだ。


シャンパングラスに入れられた綺麗なルビー色。

ほんのりカシスの香りを感じながら口を付ける。


……やっと一息つけた。
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