五感のキオク~記憶の中のアナタの声~


「お飲み物、どうされますか?」

「……同じものを」


今更メニューも見れず、マスターと親し気に話をするのもはばかられてそう答える。

マスターは頷くと今度は隣の人に話しかけた。


「今日はお早いですね」

「思いがけずに直帰出来たからね」


……っ、


その声はさっきまで耳に残っていたアーティストの声にとてもよく似ていて。


……本当に今日はついてない。


というか、似すぎている。

例のアーティストではなく、彼に。


確かによく彼とはデートしていた街だとしても。

いくらここが彼と何度か来たことがあるバーだったとしても。

広い東京でそんな事はあり得ないのだ。

他人の空似。声だってきっとよくあること。


――と思ってはいても、気になるものは気になる。
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