五感のキオク~記憶の中のアナタの声~
その人は驚いた顔をしていた。

というか、きっと私も同じぐらい目を見開いていたと思う。

彼はアーティストに似た声の人ではなく。

もちろんそのアーティストでもなく。


―――彼、その人だったから。


「なんで?」
「どうしてここにいるの?」


同じ意味の言葉が被る。

そんな私たち二人を見てマスターは微笑むと「では、ごゆっくり」そう言ってカウンターから離れてしまった。


「……マスターにやられたな」


彼はあの頃よりも少しだけ低い声でそう言うと「とりあえず乾杯しておく?」とグラスを握る。


乾杯とか、何に?

ていうか、なんで?

あーだってこの人。人のものでしょ?


良くまとまらない頭でとりあえず浮かんだ言葉を並べてみる。

もちろん並べただけで何の答えも出ない。
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