君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「それはちょっと待ってくださいっっ!

練習用の曲は別に用意してますのでこちらで……」


昨日澪音に歯を立てられた首筋の感触が蘇るような錯覚がして、慌てて音楽を止める。不自然な動きになってしまい、杉崎さんが首をかしげた。


「困らせてしまったようですね、すみません。無理にとは言いませんよ」


「いえ、こちらこそすみません。

レッスンに入りましょうか。まず私が踊るのを真似てくださいね」


スタンダードワルツのシンプルなステップを踊ると、杉崎さんはすぐに動きをマスターした。


「柚葉さんは、男性側の躍りも上手いですよね。凛々しくて綺麗だな……」


「社交ダンスする人って、圧倒的に女性の方が多いんですよ。だから私みたいに体が大きいと男性役の代わりをすることが多くて。レッスンのお手伝いをするときの生徒さんも、だいたい女性ですから」


「体が大きいわけじゃないでしょ、スラっとしてバランスが取れてて、見惚れるスタイルじゃないですか」


「そんなことないですっ。高すぎる背と、骨太で筋肉質なのは悩みなんですけど……。女性にダンスを教える時くらにしか役に立たないんで」

顔の前で手を振って否定すると、杉崎さんはクスクス笑って「照れすぎ、可愛い」と言った。杉崎さんは基本的にリップサービスが過剰な人なので、時々リアクションに困る。


「ええと……次は組んでもう一度踊ってみましょうか」
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