君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「澪音はそんなこと何も言ってくれませんでした……」


「余計な心配をかけたくないと思ってるんじゃない?

あなたがパーティーでの一件を澪音に黙っていたのと同じよ」


澪音にそんな事情があったなんて想像すらしていなかった。私の為に一人で勝手に大変な思いをして、私だけ何も知らないまま。


もしかして、私が杉崎さんと一緒に見たのは澪音が縁談を断ってるところだったの?


澪音と指先が触れあっただけで頬を赤く染めた女性。彼女が涙を流すと、澪音は少し困った様子で涙を拭いていた。


もう……そんなの逆効果に決まってる!

本当に澪音は女心が分かってないんだから。



でも、そんな不器用な努力を隠していた澪音に、私は「その手で触らないで」と言ってしまった。あの時の、表情が抜け落ちた澪音の顔が忘れられない。


「私、澪音にとても酷いこと言ってしまって……」


「そんなの謝れば良いだけじゃない。

とにかく、私が柚葉さんに言えるのはここまでよ。後は、あなたが為すべきことを自分で考えなさい」


「……はい、ありがとうございます」


その後かぐやさんはあの日の事を……澪音とかぐやさんが一緒にいた日の事を謝ってくれた。もう怒っていないと伝えると、お人好し過ぎると言ってなぜかもう一度怒られた。


「最後に言っておきたいんだけど。

あなた弥太郎さんのお気に入りなんですって? あんまり私のフィアンセに近付かないようにしてよね」


にこっと笑ったかぐやさんの瞳が、今までとは違う光を放った。


「それは凄く誤解ですっ。

お気に入りどころか、鬱陶しがられてるだけなんですけど!!」


「あらそう? 私は柚葉さんとは友好的な関係でいたいと思ってるのよ?

それもあなたの心がけ次第だけど。ふふふ」


「うわっ、目が怖い!全然笑ってないから!!

……私、用事を思い出したのでこの辺で失礼しますね!

今日はありがとうございましたっ」


雲行きが怪しくなったかぐやさんから一目散に逃げ出した。


だって、今すぐ澪音に会いたい。


会って、謝って。それから、抱き付いて思いきり甘えたかった。
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