君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
でも澪音は、その日夜遅くまで帰宅しなかった。


……そういえば役員会と言っていたっけ。でも、どんなに遅くなっても起きて待っていよう。


夜更け近くにノックの音が聞こえて、ドアまで駆け寄ると意外な人が訪れた。


「夜遅くにすまない。少し話をしないか? 舞姫さん。」


澪音のお父様だった。これまで会って話をしたのは一度きりで、それもとても短い時間だけ。目が合うと思わず背筋に緊張が走った。


「私で良ければ、喜んで」


「それは有り難い」


有り難いとは言っているけど、その人は眉間に皺が寄ったまま、澪音の部屋をくるっと見渡している。グランドピアノに目を止めると、眉間の皺を深くした。


「応接室に案内する。来なさい」


促されるままに歩いていくと、重厚な内装の広い部屋に通された。執事の茂田さんがお茶を淹れてくれようとするのを、お父様は煩わしそうに断る。


「舞姫さん、君には夢があるのか? まだ若いお嬢さんなのだから様々な希望が溢れているだろう」


「夢ですか? そうですね……憧れのダンスチームのオーディションに受かるのが今の一番の目標です」


澪音に話したのと同じように、オリンピックの閉会式でそのダンスに感動したことを伝えた。


「そうか、結構なことだな。その夢は私が叶えよう。その程度、樫月の名を使えば容易い」


「いえっ……そういうのは困ります!そんなつもりでお話ししたワケじゃないですし」


「不足なら金も払おう。君一人くらいなら、一生働く必要がないほどの額だ。

それで手を打たないか?」


「手を打つというのは……?」


「出ていけと言っている。今後一切澪音に近付くな」
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