君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
反論を許さない調子で睨まれて身がすくんだ。視線からは私への強い憎悪が伝わってくる。怖くて、できれは今すぐ逃げ出したいくらい。


……でも、笑顔を作った。笑顔は相手の懐に入り込むための飛び道具。さっきかぐやさんがそう教えてくれた。


相手は澪音のお父様だけど、今はきっと私が戦わなくちゃいけない時なんだ。



「申し訳ありませんが、お断りします」


「舞姫さん、君は何か勘違いをしているようだね。

愚息が君を惑わせたなら謝ろう。

しかし、わかるだろう?君のような女は樫月に相応しくない」


舞姫というのは私を侮辱する渾名だと、前に弥太郎さんが教えてくれた。私は完全に見下されてる。でもその事に怒ったりしちゃダメ。冷静に、冷静に……。


「存じております。私は庶民の出ですから。良家の子女とは違うかもしれません。粗野なふるまいがあればお詫びいたします。

ですが、澪音に相応しくなるように日々努力を重ねておりますので……」


「そんなものは期待していない。君の血を受け継いで、まともな後継者が育つか?

君と関係を築いて樫月に何のメリットがある?

答えられないだろう。息子の足を引っ張らないでくれ」


「……何のメリットもありません。私は躍りが少し得意なだけで他に取り柄もありません。

でも、澪音は私を必要としてくれているし、私もそうなんです。澪音のことを愛しています」


動揺して余計な事まで言ってしまった気がするけど、自分の気持ちを隠さずに伝えた。

でも澪音のお父様はますます疎ましげに顔をしかめるだけで。
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