君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「目の前で柚葉が傷つけられそうになっていたのに、助けない理由があるか?」


「私なんか良いから!それよりピアノ弾けなくなったらどうするんですか!?」


「ピアノはもう一生分くらい弾いた気がするし、弾けなくても別に支障はないよ」


「お願いだからそんなこと言わないで……!

私が困るんです!澪音がピアノ弾けなくなったら私が死にそうです。

何よりもまず自分の手を大事にして!」



澪音の静かな視線は、気が動転している私を諭すようだった。


「そう言われても譲れない。俺には柚葉の体が傷付く方が耐えられないからな。

だいたい、柚葉に触れられもしない手なんて今更どうなっても」


「どうなっても良いわけないでしょう!?」


今も出血が止まっていない。血を受け止めていたジャケットからぽたっと赤い雫が落ちて、見ているだけで怖くなる。


「それより柚葉、そろそろ気付いてくれないか?

あまり長い期間この店に迷惑はかけられないし、俺も今の演奏を続けるのは、人に日記でも読まれるようで落ち着かないから」


「店に迷惑……?

それに日記を読まれるって……?」


「触れることも話をすることも禁じられたら、俺にはここでピアノの音を君に届けるくらいしか手段が無いんだ。

柚葉にはとっくに伝わっている筈なんだけど」


甘くて切ない音色……。いつも聞いているだけで気持ちがざわざわして、体が熱くて……。


真っ赤になった私の顔を見て、澪音の表情が緩む。


「それだけ分かっているなら、良いよ。

そう言えば明日は大事なオーディションなんだって?気合いを入れけいけよ。落ちたら承知しないからな」
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