君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「馬鹿、柚葉まで何言ってんだ」


「だって、あのパーティーで出会った女の人で、かぐや姫が一番素敵だと思ったから。あんな人、なかなかいませんんよ? 凄く綺麗な人だし……」


「……まあ、そうだな」


「それに、内面だって凛として格好良かった」


「確かにな」


「なら、なんで嫌なんですか!?」


「何でもだよ!かぐやは無理だ。幼い頃から知ってるんだ」


澪音が怒ったように言った。

お父様はそのあとすぐに帰ってきて、


「先ずは二人で話をしよう

舞姫さんは悪いけど外にいてくれ」

と私は部屋から追い出された。





扉を閉めて、やっと緊張から解放されたため息をつくと、眼鏡をかけた男性が私を見ているのに気付く。

整った顔立ちで、少し神経質そうな表情をしている。真っ直ぐな黒髪が印象的だ。


その人は身振りで私を呼んで、


『私は樫月弥太郎(かしづきやたろう)。澪音の兄だ』


紙にそう書いて私に見せた。筆談の理由として、『私は声が出ない』と続けた。


この人が澪音のお兄さんなんだ……。あまり似ていない気がする。澪音も自分と似ていないと言ってたっけ。それに、優しい人だと自慢していた。


「名前がまったく違うんですね……」


弥太郎、という時代がかった名前を眺めて思わず呟くと、


『樫月家では、長男とそれ以外は区別して育てられるから、名前にもそれが現れている。

当主になるか、当主を支えるか、幼い頃から叩き込まれる』

と書いた。


それなら、弥太郎さんは当主になると叩き込まれて育って来たんだ。でも、病気で澪音が当主になることになって……。


『結局、澪音に厄介ごとを押し付けることになって心苦しく思っている。

あれは、当主になるには優し過ぎる気質だ』


澪音と同じように、お兄さんも澪音を優しいというのが微笑ましい。


『さっきの会話。舞姫って誉め言葉じゃないからな。

馬鹿にされてるの気が付かなかった?』

「え……?」
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