君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
『森鴎外の 「舞姫」になぞらえてそう呼ばれてるんだよ』


そう言われても森鴎外の舞姫がわからないので首を傾げると


『やはりあなたはこの程度の教養も無いか』


と、冷たい言葉を返される。優しい人と聞いていただけにショックが大きい。


『「舞姫」は、日本を代表するようなエリートがドイツで踊り子と恋に落ちる話だ。

エリートの男は出世と恋愛の狭間で苦悩する。

結局、女は出世の妨げになるから捨てられて、発狂してしまう』


「ひどい人。そのエリートの人は……」


『今伝えたいのはそこではない。あなたが踊り子に例えられてるんだ。

どうせすぐに澪音に捨てられる、無教養な女だと』


弥太郎さんは冷たい目で私を見ていた。この人のどこが優しいの!?


「無教養ですみませんね!

エリートの方々は、私みたいな庶民は何言っても傷付かないと思ってるんですね」



『樫月家に関われば、あなたが余計な傷を負うだけだ。澪音のもとを去りなさい。

澪音の相手はかぐやが相応しい。血筋も、能力も、人脈も、かぐやなら澪音の助けになるが、あなたには無理だ』


「結婚相手なのに何でそんなにドライに考えるの? 感情は二の次なんですか!?」


澪音を取り囲む環境があまりにも冷たすぎる。いくらなんでも澪音が可愛そうだ。


『かぐやは私の許嫁だったから、澪音は遠慮しているだけだ。それであんなに嫌がっている。』


弥太郎さんは意外な言葉を続けた。
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