君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「そんなこと言われても……!ここ廊下ですから誰が見てるか分からないし」


「誰だってこの家の関係者だから平気だよ。

柚葉とこうしているのを見られても、俺は困らない」


今度はゆっくりと頬にキスされて、澪音が触れたところが粟立つような感覚になる。唇が離れると澪音の柔らかい髪が顔を掠めていった。


目を開けると鼻が触れそうな距離に澪音の顔があり、


「わ、私は困ります! 今凄く困ってますっ」


「うん、知ってる。

困ってる柚葉も可愛いから観察したいんだ」


にこにこしながら、なんて意地悪なこと言うんだろう。
澪音の目を見ていると顔がどんどん熱くなるので、


「ごめんなさいっ!」


と、思い切って頭突きをして逃げる。


「いて……俺、今、生まれて初めて頭突きってものをされたよ……。

こういう感じなんだな……」


澪音が目を丸くして額をさすっているので、可笑しくて吹き出してしまった。


「ははっ、さすが高貴な生まれですね!

さっきはかなり手加減してますから、本当はもっと痛いんですよ」


「ちっ。勉強になったよ。

本当に柚葉はつれない奴だな」


澪音がわざとらしい仏頂面になる。少し甘えるような態度で、そういうところも可愛い。


でも、「つれない」なんて言うけど!
澪音は私のこと何とも思ってないじゃない……!


言葉に出せない代わりに、心の中で叫ぶ。


澪音の為に頑張るつもりだけど、できれば私の気持ちを乱さないで欲しい。

胸に手を当てると心臓がいつもよりずっと早くトクトクと動いていた。
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