君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「そんな顔を見せられたら、俺だって理性に限界があるよ」


荒くなった息を整えて、恥ずかしいので視線をはずして精一杯の勇気を振り絞って伝える。


「私、平気ですよ……」


「え?」


「血の味なら、気にしません」


それがあからさまにキスを請う言葉だと気がついて、顔が赤くなる。でも澪音は「そっちの意味か」と呟いて、すぐに唇を深く重ねた。


私を食べ尽くすような荒々しいキス。確かに少しだけ鉄のような味がして、それが澪音の傷を物語っていて苦しくなった。


「キスだけじゃ足りないな……

柚葉は、好きだった相手のこと少しは忘れられたか?」


ふるふると首を振ると、澪音は悲しそうに眉を寄せる。


「まったく……誰が相手なんだよ。あの店長か?」


「違います、オーナーみたいな人は理想だけど、結婚してますから。誰が好きか言うつもりはありませんよ」


「あの人が理想なんだな。覚えておく。

誰が相手だって、俺が忘れさせてあげるから大丈夫だ」


そうやって私に優しくしてくれるほど、私は失恋から抜け出せなくなるんだけど。でも、今だけ独占できる澪音の手を振りほどくことは、もうできなくなっていた。


そうして、私はバイトと講義に明け暮れて、澪音は仕事漬けの毎日が過ぎた。


時々は澪音にピアノを弾いてもらって、その見返りのように澪音は私にキスを求める。本当は私では満たされないんだろうけど、澪音のキスに何もかも考えられなくなり、飽くことなく求められる唇にいつまでも応えていた。
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