君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
一週間ほどが過ぎた頃、よく晴れた日に中庭を散歩していると植木の間からカサカサと音が聞こえた。


「わふっ」


急に白くて大きな犬が突進してくるので、びっくりしてその場に立ち尽くす。そのモコモコの犬ははしゃいだように私に前足をかけて、顔中をなめられた。



「もしかしてあなたがカノン?

……うわ、力強すぎっ。やめて、くすぐったい!」


体を伸ばすと私の背丈ほどもありそうな大きさで、突進された勢いに負けて尻餅をつく。その拍子にこのお屋敷で用意してもらった綺麗な服が、土まみれで大変なことになった。無駄な抵抗を諦めると、カノンは私の上に乗ってふんふんと鼻を鳴らしている。



ふと、カノンとは違う気配を近くに感じて、振り返ると弥太郎さんが口元に手を当てて笑いを堪えていた。


「ちょっと! 見てるなら助けて下さいよっ

カノン、カーノーン! お願いだからどいて」


弥太郎さんはそんな私をゆっくりと観察するように眺めた後で、面倒そうにカノンを引き離す。弥太郎さんが手をかけるとカノンはおとなしくお座りをした。


「簡単に助けられるのに見てるだけとは、随分と意地悪ですね」


「たのしそうだったから、つい」


弥太郎さんは唇の動きだけでそう言って、人の悪い笑みを浮かべる。土まみれで困っているのに、どこが楽しそうに見えるというのだ。


『まだ家に居たんだな。舞姫は毎日何をやってるんだ?
暇なのか?』


携帯の画面に、いつもながら弥太郎さんの意地悪なコメントが表示されている。

舞姫というのは私を馬鹿にした渾名だと説明した上で、私のことを舞姫と呼ぶのだからたちが悪い。
< 66 / 220 >

この作品をシェア

pagetop