君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
弥太郎さんは振り返ってカノンを指差す。


「確かにカノンのせいですけどっ!弥太郎さんも見てたなら少しは責任感じてくれませんかね……?」


私の文句はやっぱり無視で、弥太郎さんはカノンをひと撫でして合図を送った。するとカノンはお利口さんに自分の居場所へと帰っていく。


『お前はどっちかっていうと、カノンの身代わりの方が近いんじゃないか』


「澪音にも似てると言われました……」


すると弥太郎さんは「やっぱり」と可笑しそうに笑った。仕返しに泥だらけの状態で体当たりしようとすると、動きを見切ったかのように寸前で避けられる。


「ますますにてる」


破顔した弥太郎さんが唇を動かした。弥太郎さんの唇だけの言葉を読むのも馴れてきたな、と思っていたら、向こうから澪音が珍しく慌てた様子で歩いてきた。


「柚葉、その服はどうした?」


「さっきカノンに会って、じゃれつかれたんですよ。パワフルなワンコですね」


澪音は今日も品の良いスーツに身を包んでいる。ワイン色のネクタイとチーフをつけているから、どこかパーティーにでも出席するのかもしれない。

私に付いた土を払おうと手を伸ばしてくれたけど、きちんと整えられたスーツを汚しては申し訳ないので身を引いた。


「澪音、服が汚れますよ」


「兄さんにはタックルでもしそうな勢いだったのに、俺からは体を避けるのか」


「弥太郎さんと澪音では今の服装が全然違いますって。

さっきは、弥太郎さん見てたのに笑ってて全然助けてくれないから」


「たすけられただけ、かんしゃしろ」


弥太郎さんは上から目線でそう言った。声は出ていなくても、弥太郎さんの意地悪な声は余裕で脳内再生される。
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